第21回(平成29年度)
最優秀賞
風景部門 「苔むす根」
撮影地:雲南市三刀屋町多久和
飯塚 真吾
飯塚 真吾
山奥の撮影でしょうか、苔が美しい色彩を見せています。特に新緑から初夏にかけての色は古代史の中にも表現されており、写真の題材としてもよく目にする作品です。長い年月をかけて木の根にへばりついていて、一般の家庭庭園では見られない情景を描写しています。
農業の原点は水であるといわれるように山から流れてくる水が大木や渓流に流れ苔を生長させるものですが、この苔は題材にしても立派で形もよく、通り過ぎてもふと後を振り返って見たいような濃度の高い色彩を見せています。このような作品が撮れる条件としては雨の日であることと太陽の光が直射することが絶対的に必要です。作者の着眼点もよく、じっと見ていて不思議な位。動物の足や首に見える撮影角度もよく、この苔を伝って高地から下流に水が流れて行くと思う時、田園に水を送ったり溜池に水をもたらす、天の恵みのようなものを感じます。季節感もよく、特別審査委員の佐野史郎さんも絶賛しておられました。
おめでとうございます。
(写真家/川本 貢功)
特別審査委員賞(佐野史郎)
部門賞
風景部門
風景部門 「雪にも負けず」
撮影地:安来市広瀬町宇波
佐伯 範夫
佐伯 範夫
雪の降る風景は、場所によっては風情を感じます。雪の降る暗い日の撮影だと思いますが農家の屋根の上の雪と壁に降る雪が印象的な画面となりました。
当然のように軒下にある農産物は田舎ではよく見かけられますが、この作品の良さは収穫されてからこの場所にあり、冷たい寒さに耐えているように見える農産物です。その下には竹のようなものもあり寒風に吹きざらしにされております。全体の画面構成もよく、加えてシャッターチャンスのよさと縦位置の作品として成功しました。
この季節感は冬の風物詩的な表現となっていますが「カボチャ」でしょうか、それぞれ個性のある姿をしており一列に並んで屋根の下で冷たい場所に耐えている形態がよく、これにカメラを向けた作者の感性に賞賛するものです。感動的な作品となりました。
(写真家/川本 貢功)
人物部門
人物部門 「力をあわせて」
撮影地:安来市宇賀荘町
長谷川 公子
長谷川 公子
田植の季節、二人が協力するように田植をしています。
泥だらけの手や足は題名のとおり力を合せて協力している情景がよく撮れています。瞬間的ですが苗を受け渡ししている情景が愛らしく田んぼに写る二人の影が又、別の形で物語りを見せてくれています。
最近では、家族や近所の人達が賑やかに話をしながら田植を楽しんでいる風景は余り見られなくなりましたが、機械化された農作業の中でもこのような風景が見られることは喜ばしいことです。
地域や学校での情操教育なのでしょうか、泥だらけになって田植をしており見るものにとっては微笑ましいものです。苗がやがて稲穂に更にお米になるのを子供達が関心を持つようになってほしいものです。
(写真家/川本 貢功)
地域活性化部門
地域活性化部門 「夜かぐら」
撮影地:雲南市大東町須賀
原 浩二
原 浩二
夜神楽は最近においては、山陰でも多く見られるようになりました。以前は祭りの舞で神社の境内等で舞われたものですが、この作品のよさは、わら葺屋根の家屋の中での舞です。この地方には出雲風土記に紹介されている須賀神社があり、ここの祭神として素戔嗚命(スサノオノミコト)と稲田姫が合祀されており、この集落には多くの神楽団があり競演しています。
演舞として中でも有名なのが八岐蛇退治ですが、この作品は逆に静かな場面の多い香具山を選ばれていて、観客の背姿が涼を求めているのか、夏の夜を楽しんでいるようです。撮影条件の悪い夕方に舞と光とを適正な露出で成功しました。これはデジタル効果でもあります。
農作業から発展した神楽は、長い伝統もあり、いつまでも残して欲しいものです。努力作品です。
(写真家/川本 貢功)
審査委員賞
入選
佳作
応募状況
応募作品総数 518点 |
風景部門 | 282 |
人物部門 | 126 | |
地域活性化部門 | 110 | |
応募者数 | 203人(内県外者16人) |
総評
今回から風景部門、人物部門のほか、施設部門とイベント部門に変わって地域活性化部門が新設され三部門になりました。
中でも風景部門の応募が多く、次が人物部門、さらに地域活性化部門ですが、それぞれの部門に該当するように応募されており、他部門との併合などが少なくなり、迷いがなくなったように思いました。
今回、新設された地域活性化部門は農山村のどこにでもあるような題材であり被写体だと思いますので、部門の迷いがあればこの部門で応募されるとよいと思います。
また、家庭の中の家族愛のような作品も応募されてくるようになりました。
最近のデジタルカメラには写り過ぎといわれるほどシャープネスな作品が多く見られます。それぞれの応募作品もピントや露出などは決ったように美しく撮れていました。
特に高感度の画質が更によくなり開放F値の明るいレンズと組み合わせると少しの明るさがあれば美しく撮れますので、農村の家の中やら暗い場所でも効果が出ますし、農村にも心象的な風景や風物も多くありますので、この方にも目を向けていただきたいと思います。
最近は県外からの撮影者が増加していますが、島根県は東西に日本一長い県で、山あり川あり海あり谷ありと被写体が多く、四季の農村風景、特に田植えや稲刈りの頃は祭りも多く、これらは山間部や農村に多く伝承されていますので、人々の心に残るような作品が撮影出来ると思います。(写真家/川本 貢功)